査読の仕方

はじめに

 査読者の仕方の覚書。まだ経験が浅いので、間違ったことを書いている可能性がある。 どちらかというと、はじめて査読をすることになり、どうして良いかわからないような学生向け。

査読にたいする心構え

 査読にたいする心構えは人それぞれだが、個人的には「その論文は掲載する価値があるか、 もしなければどうすれば掲載する価値を持つか」を考えながら読むことにしている。 従って、(よほどひどい論文で無い限り)原則としてコメントに従って修正して来たら通すようにしているし、 逆に、そこをクリアすればアクセプトする、というコメントを書くようにしている。 もちろんどう直してもアクセプトできない場合にはそう書くべきだが、 いまのところ幸運な事に、そんなにひどい論文にはあたっていない。

(2012/2/15追記) 残念ながら、立て続けに「そんなにひどい論文」が送られてきたので 門前払いに近いReject判定をすることになった。それについては後述

 また、原則として「自分がその論文を見てどう思うか」ではなく、 「その雑誌の想定読者が読んだ場合にどう思うか」を考えて査読する。 図表など見栄えに関する物も、単に読みづらいとか分かりづらいとか 言うのではなく、「こうした方が一般読者のためになるんじゃない」という形で提案すると良い。

 なお、あくまでも論文の採録の判断はエディタがするのであり、 査読者の役割はエディタがただしく論文の採録の可否を判断できる材料を提供することであることを忘れないこと。 自分が著者で、査読へのコメントの返事をする時と同様に、査読コメントも著者と同時にエディタに読ませるつもり書く。

締め切りを守る

 多くの場合、査読には回答期限がある。およそ2週間から1ヶ月程度だが、 Letterであれば1週間で返せ、と言われることもある。 もし査読を引き受けるのであれば、必ず期限を守る事。 そして、引き受けたにも関わらず期限内に回答できなさそうであれば、 その旨をEditorに連絡し、回答期限を延長するか、 別の人にまわしてもらうかする(その場合は適任者を推薦するのが望ましい)。 Editorにとって一番困るのは、期限内に査読レポートがこないで、さらに いつまでに来るかもわからないので別の査読者にも回せない、という状況。 査読を引き受けた論文は、学生の学位審査や奨学金の根拠になるかもしれないので、論文が放置されるととても困る。 著者の肩書で査読レポートの内容を変えてはならないが、引き受けた以上は締め切りを守るようにする。

査読レポートを提出する、その前に

 査読レポートを書いて、スペルチェックも済み、後は提出するだけになっても、すぐに提出してはいけない。 査読レポートは最低一日は寝かせてから送ること。査読をする時、何かしらの感情の起伏は避けられない。特に「なんだこの論文!」とか思うこともあるだろう。特に批判的なレポートを書いた時こそ、提出は一日待って、次の日、落ち着いて再度見返すべきである。これまで、「あ、言葉が強すぎたかな」と査読レポートを送った後で後悔したことがある。頭に血が上って書いたレポートをそのまま提出してはいけないが、頭に血が上った状態では批判的に過ぎるかどうかは判断できないであろう。なので無条件に「査読レポートの提出は一日待ってから」とルール化したほうが良い。締め切りを守ることも考えると、査読レポートは締め切りの数日前には完成していなければならない。締め切り直前に焦ってやるとろくなことはない。その場合はエディタに延期してもらうか、別の人を推薦するのが良いと思う。

フォーマット

 査読レポートは以下の構成で書くと良い。

論文の要約

 まず最初に、著者がいったい何をして、どんな結果がでたかを 自分の言葉で表現する。これは、 エディタと著者に、「自分はちゃんと論文を読んで理解したよ」ということを伝えるため。 逆に著者はそこを見て、自分の論文の意図が正しく受け取られたかを判断する。 私見だが、ここをabstのコピペで済ます査読者は、あまり信頼できない。

 よくあるパターンは

The authors study.... They perform numerical simulations and obtain.... ...the results are compared with experimental results and they conclude ...
みたいな感じ。

論文の評価

 論文のまとめの次には、その論文にたいする評価を書く。 新しい結果を含んでいるか?数値計算や実験はちゃんと実施されているか? 表現は分かりやすく適切か? そして、その理由により論文をアクセプトするか、アクセプトできないなら なぜかを書く。

 よくあるパターンの一つは、あたらしい結果を含んではいるが、その表現がミスリーディングだったりするもの。 その場合は

The manuscript contains the new results. However, the expression of ...
とか書く。

 ちゃんとした計算が行われているが、なんでその計算をしようとしたか、動機がよくわからなかった、 というのもよくある。

While the computer simulations are well performed and the conclusions make sense, the authors fail to convince me that the manuscript is important, since ....
数値計算方法や表現には問題がないが、全く重要性がわからない論文が来たこともあった。 その場合は
While the manuscript is well written and computer simulations are well performed, the authors completely fail to explain why ○○ should be studied.
と、ちょっと強い口調で書いたこともある。

Major Comments

 いろいろな流儀があろうが、僕が査読のコメントをする際には Major commentsとMinor commentsに分けている。 Major commentsは論文をアクセプトするにはクリアしなければならない重要なコメントで、 それに一つでも納得できる返事がなければアクセプトしない。 Minorコメントは、スペルミスなどの指摘、図の見づらいところの修正、数式の細かいミスや、 なくてもいいけど、やった方が読者は喜ぶのでは?という追加計算/実験の提案などを含む。

 査読で見るべきポイントで最も大事なのは、論文のイントロでの問題提起に、結論で正しく対応できているかである。 イントロでは、大雑把に言って過去の研究で不満なところが書いてあるはずで、 この論文でその不満な点は解消されたかを見る。 たまにイントロでの問題提起と結論が対応していない論文があるが、その場合は それを指摘して書き直すように言う。

 問題提起がもっともで、かつ結論にて十分その問題に答えていると判断したら、 次は論理展開を見る。与えられた条件から、無理な結論を導いていないか。 もし論理展開に無理があると感じたら、 だいたい仮定が強引であるか、他にも原因がありそうなのに無視しているかのどちらかである。 特に、他に原因がありそうなのに無視している場合は、それがなぜかを聞く。

 図やテーブルなどの図表は、その図で著者が何を主張したいかを考える。 もし、特に本文の主張と対応せず、「単にせっかくやったから載せた」という図があれば 削除を提案する。ちなみにそういう図(特に重要ではないがせっかくだから載せたデータ)は結構ある。

Minor Comments

 スペルミスや数式の誤り、リファレンスが正しいかなどをチェックする。 逆に隅々まできちんと心配りがある論文は、数値計算などもきちっとやってある場合が多い。 査読に予断はよくないが、やはりミスが多い論文は結果も怪しいことが多いので、 論文に細かいミスが多かった場合は、もういちど計算条件などで大きなミスや見落としがないか、 式変形などもちゃんとチェックした方が良い気がする。

 Minorなところで個人的にチェックしているのは次のような点。

テンプレート

 以上をまとめると、査読コメントのテンプレートはこんな感じになる。 それぞれのコメントに数字をつけておくと親切。

The authors study ○○ by ××.
They compare ○○ with ××, and find that ....

While the manuscript are well written and the 
numerical simulations are well performed, 
I cannot accept the manuscript as is since....

My major comments are as follows.

1) ....

2) ...

3) ...

Here are the minor comments.

4) ....

5) ....

6) ....

その他

 多くの場合、査読コメントとは別に、エディタだけにコメントを送ることができる。 そこでは、論文の著者には知らせずに、エディタだけに伝えたいことを書く。 僕がよくやるのは、一応査読はするが、自分の専門とはやや外れているので もしかしたら的を外した議論をしているかもしれないとか、他のレフェリーに まわした方が良いとか伝えること。他のレフェリーにまわした方が良いと伝える場合には 合わせてレフェリーの推薦をすることが望ましい(・・・が、自分の専門でない分野なので難しいだろう)。

 あとは、「コメントにはこう書いたけど、ここだけクリアしたらもうアクセプトしても良いと思う」 というメッセージを書いたこともある。

門前払い系

 それなりの論文を査読してきたが、ものすごくひどい論文というのはなかった。 しかし、最近になって立て続けにひどい論文、つまりどうなおしたってAcceptしようのない論文が回って来たので、 それについてどう対処したかメモ。

科学論文になっていない論文

 論文全体が何を目的に、何を示したことになっているかさっぱりわからない。 また、自分流儀の記号が多数、しかも説明無しに使われており、数式を追うこともできない。 特に、なんか重要そうな変数に多数ついている添字が何かと思ったら 著者のイニシャルだった。どうやら「自分理論から求めた値」という意味だったらしい。

 査読レポートには 「I cannot suggest publishing the manuscript since ... 」と書いて 上記の事(ロジックがまったくわからない、記号の説明も全然ない)ということを続けた。 さらに、Editorに「この論文は査読するに値しない(This manuscript does not deserve to be reviewed.) 次からは査読者にまわさず、EditorでRejectしてほしい」と書いた。

科学論文になっていない論文その2

 おそらく学生が初めて書いた論文を指導教官がチェックせずに投稿された(と信じたい)もの。 あまりのひどさに最後まで読めなかった。英語はもちろんひどかったのだが、それ以外のだめだったところリスト。

 頭に来たので、著者には「次に科学論文を書く時にはもっと慎重かつ真摯になれ」エディタには「再度投稿されても俺にまわすな」と書いた。

 余談だが、全体的に英語がひどい論文で、一部だけ英語がまともだったら剽窃(コピペ)を疑った方が良い。 ググればだいたい見つかる。僕はいくつか見つけたことがあるが、全部Wikipedia:enがコピペ元だった。

査読レポートを無視

 査読レポートを無視された、という事例の紹介。世の中にはそんなことをする人がいる。

 最初に査読を依頼された論文があまりにもひどかったので、門前払いに近いレポートを書いた。 門前払いとは言っても、「目的が見当たらない」とか「変数の定義が無い」とか「こういうTypoがあるので直せ」とかちゃんと書いた。 しばらくして、同じジャーナルから同じ著者の論文が、別の論文IDで届いた。

 科学論文は投稿されると論文IDが振られ、査読の経過を追うことができるようになっている。 著者は査読者のレポート読み、論文を修正し、レポートへの返事とともに再投稿する。 このステップを何度か繰り返すことで最終的に論文はアクセプトされ、雑誌に公開される。

 その論文IDが変わったということは、新規投稿されたということを意味する。 つまりこの著者、論文を投稿し、査読レポートをもらったにも関わらず、そのレポートの返事を書かずに済むように 新規投稿してきたということに。しかし、だいたい同じような論文は同じ査読者に届くものだし、 査読者は論文を真剣に読むから内容は覚えているものだ。

 これは査読者のみならず、科学の仕組みを全く馬鹿にした、許しがたい行為だと思う。 論文は、僕が前に指摘したTypo「だけ」なおっているから、査読レポートを読んだことは間違いない。 頭に来たのでエディタに「この著者の論文を二度とまわすな」と書いた。


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